味わう

「おすすめワイン×家庭料理」の楽しみ方

くりもときょうこ
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INDEX
  1. 造り手は家でワインをどう楽しんでいる?
  2. はすみふぁーむ&ワイナリー
  3. ドメーヌナカジマ
  4. 児玉邸

造り手は家でワインをどう楽しんでいる?

長引くコロナ禍により、家で料理を作る、オンライン飲み会への参加が“ニューノーマル”になった、という人も多いのでは。

ワインには、チーズや肉を使った洋風の料理をつい合わせたくなりますが、ヨーロッパとアジアの境に位置するコーカサス地方が出生地のワインは、意外と合わせられる料理の幅は広いのです。(もちろん好みはありますが)

 

今回の取材は、「ワインの造り手たちは、家でどんな風にワインと料理を楽しんでいるのだろう?」という素朴な疑問からスタートしました。それぞれ個性の違う、3つのワイナリーやワイングロワーに、家での楽しみ方を教えていただきました。

 

 

はすみふぁーむ&ワイナリー

自家醸造開始から10年。農水省から表彰も

写真/ワイナリーはショップを併設しており、ワインや雑貨の購入、試飲(有料)ができる

 

1軒目は「はすみふぁーむ&ワイナリー」。オーナーの蓮見喜昭さんは2005年に東御市に移住して「はすみふぁーむ」を設立し、2011年から自家醸造をはじめました。翌2012年には、上田市の柳町通りに直営ショップ&カフェをオープンし、ワインづくりの川上から川下まで手掛けています。

 

自家醸造をはじめて10年の節目に、農林水産省などが選ぶ2020年度「6次産業化アワード」にて、奨励賞を受賞。SNSを使ったPR、会員制でお客様と交流する取り組み、海外との直接取引など、小規模ワイナリー業態のさきがけとして取り組んできたことが評価されました。

 

繁忙期にはボランティアスタッフなどが入るものの、基本は蓮見さんも入れて4名のスタッフですべてを切り回しています。そのスタッフのうちゼネラルマネージャーである内山貴之さんが、今回の取材に応えてくれました。

 

内山さんは東京都町田市出身で、都内で建築関係の仕事を13年続けてきました。信州での暮らしに憧れ長野県に移住し、軽井沢のホテルでレストランサービスの仕事に携わります。そこで地元ワインに出会いはすみふぁーむを知ったことから、苗植えボランティアなどに参加するように。その後蓮見さんに声をかけられ、2017年に同社に入社しました。

 

 

写真/はすみふぁーむ&ワイナリーのゼネラルマネージャー・内山貴之さん。「もともとお酒は好きだったんですが、まさか自分がつくる側になるとは思っていませんでした」とのこと

 

 

シャルドネ2019×クリームソースを添えたローストポーク

写真/クリームソースを添えたローストポーク

 

奥様もお勤めに出ている内山さんのお宅は、週の真ん中が“週末”。一緒にワインも食事も楽しみたいので、気楽につくれるようにと、オーブン料理や煮込み料理を作ることが多いのだとか。

 

今回のワインは、はすみふぁーむのシャルドネ2019。柑橘系の爽やかな香り、心地よいミネラル感、そして酸のあるキリッとした後味が特徴の白ワインです。この年のシャルドネは収量・品質ともに過去最高を記録し、香り豊かに仕上がっていると好評です。

 

そこに内山さんが合わせたのは、クリームソースを添えたローストポーク。

「シャルドネ2019の対極にある料理をあえて合わせました。食事とワインがシーソーのように行ったり来たりするイメージです。肉の脂をすっきりしたシャルドネが洗い流してくれる、リフレッシュメントの効果があります」

 

写真/家では調理に手をかけすぎず、その分ゆったりとワインと食事を楽しむ。内山さんにとって、ワインは暮らしに欠かせないアイテムだ

 

豚肩ロースのかたまりのすべての面を、まずフライパンで焼き固めます。180℃のオーブンで30~40分ローストに。

その間にソースをつくります。まず玉ねぎを炒めてきのこ(しいたけ、エリンギ、ひらたけ)を入れ、塩こしょうして小麦粉を全体に絡めます。そこに牛乳を注いで混ぜていくと、クリームソースらしいとろみが。

ここで投入した青菜は、なんとターツァイ。

「ターツァイは最近、スーパーや直売所でよく見かけるようになりました。中国野菜ですが小松菜よりクセがないので洋風の料理にも合うし、シャキシャキした歯触りがいいアクセントになります」

茎と葉に分けてカットしたターツァイを、まず茎から、しばらくして葉と時間差で投入して軽く煮ます。

 

焼きあがった豚肉はアルミホイルに包んで余熱で火を通しつつ、肉汁を落ち着かせます。大皿にクリームソースとスライスしたローストポークを盛って完成。

内山さんが「最初は鶏肉で考えていましたが、いい豚肩ロースがあったので豚肉にしました」と言うように、鶏肉でも応用できます。

 

はすみふぁーむ&ワイナリーは、コロナ禍以降、「銀座NAGANO」などと組んでオンラインワイナリーツアーをはじめました。オンライン上でぶどう畑やワイナリー内部の様子が見学できるのですが、あらかじめ入手したはすみふぁーむのワインを飲みながら参加することもでき、好評を博しているようです。

「開催してみたら、子育て中の方、遠方にお住まいの方、お体の加減で遠出が厳しい方など、さまざまなお客様にバリアフリーで参加していただいていることが分かりました。今後も力を入れていきたいです」

 

2020年からは海外での展示会への出展、商談などに力を入れる予定だったそうですが、コロナ禍というアクシデントにもオンラインワイナリーツアーという新たな取り組みで対応し、新しいお客様との関係を紡いでいるようです。

 

 

 

 

ドメーヌナカジマ

御堂地区への展開で新しい10年がはじまる

写真/2019年に醸造所を増設した

 

次は、ナチュラルワインを醸造している「ドメーヌナカジマ」へ。オーナーの中島豊さんと、奥様の美智留さんからお話を伺いました。

 

ドメーヌナカジマは、2010年に田沢地区にぶどうを植えはじめ、2014年にワイナリーを設立しました。2020年は、御堂地区に1.5ヘクタールの新たなぶどう畑を持ち植樹をするという、大きなプロジェクトに取り組みはじめました。田沢の畑も1.5ヘクタールなので、畑が倍増することになります。

「御堂は田沢よりも標高が100メートルほど高いので、冷涼な気候に適したジュラ、アルザス系品種を植えます。畑はこれ以上広げないつもりなので、思いつく品種はすべて植えるつもりで。畑に適した品種と醸造方法で、田沢では挑戦していなかったことをやりたいと思っています」(豊さん)。

 

大きなチャレンジに挑んでいる中島さんご夫妻は、ご自宅ではどのようにワインを楽しまれているのでしょうか。

 

ペティアン・ナチュール・ロゼ2020×皮から手づくり焼き餃子

写真/豊さんが皮からつくる焼き餃子。ウー・ウェン著『ウー・ウェンの北京小麦粉料理』(高橋書店)の本を参考に、独学で習得したという

 

選んだワインは「ペティアン・ナチュール・ロゼ2020」。ペティアンとは微発泡性ワインのことで、スパークリングワインよりガス圧が弱いのが特徴です。ドメーヌナカジマでは、近隣農家から購入した巨峰を使い、野生酵母で自然に発酵させて澱(酵母)を引かないまま瓶詰めしています。

 

開栓直後はいちごのような甘い香りと、スモモのような甘酸っぱさと炭酸のピチピチした感触が。しばらく置くと、炭酸が抜けてまた違うニュアンスが顔を出してくるので、冷蔵しながら数日かけて楽しむこともできます。

 

一般的にはワインと合わせにくいと言われる魚卵とも合う、オールマイティなドメーヌナカジマのペティアン。泡と酸味が特長なので、とりわけ油脂を使った料理と好相性です。中島家では「ワインと食材は同じ色味で合わせるといいというセオリー通り、豚肉とは本当によく合います」(美智留さん)と、豚肉を使った料理をよく合わせるようです。おすすめの料理を伺ったところ、挙げてくださったのはなんと、餃子や麻婆豆腐、ポン酢をきかせたしゃぶしゃぶといった料理でした。

 

「餃子は夫が皮からつくる焼き餃子です。具は白菜とニラを入れたスタンダードなものです。麻婆豆腐は辛いとよりいっそうペティアンが引き立つんです」(美智留さん)

「ポン酢で食べるしゃぶしゃぶは、ペティアンの甘さが感じられます」(豊さん)

 

写真/豆板醤で辛味を出した味噌ベースで、仕上げに生の長ねぎ、すり鉢ですった花椒(ホアジャオ/中国山椒)をかける

 

中島さんのお宅では、ペティアンを冷蔵庫に常備し、1本を3~4日かけて飲むのが常。時間の経過による変化を見つつ、ワインと料理のさまざまなマッチングを探っています。

「ワインを飲むときは、合わせる料理を意識して考えます。私は今、妊娠中で飲めないので、日常的には難しいのですが」(美智留さん)

「妻と僕はワインの趣味が近いので、話が合います。僕はナチュラルワインを中心に見てきたのですが、妻は世界中のワインを飲んでいて、しかも最近の動向にも詳しいので、教わることも多いです」(豊さん)

 

「生ハムのサンドイッチとも合うから、ペティアンを持ってピクニックもいいよね。時間があればだけど(笑)」「最近つくってみた、鶏肉の味噌マヨガーリック炒めともよく合ったね」と話すおふたりから、ふだんの暮らしの中で、枠にとらわれずに柔軟にワインと食事を楽しんでいることが伝わってきます。

 

2020年は秋に獣害に遭って収量が減るアクシデントはありつつも、無事、自社畑ワインを仕込むことができました。最近は、Instagramを通じて直接連絡をもらい、海外への販路も少しずつ増えているのだとか。海外ではナチュラルワインを専門に扱う仲介会社が多く、意欲的に新しい造り手を探していて、SNSに直接メッセージが送られてくるそうです。

 

新しい10年を切り拓く御堂地区の畑、そして初夏には新しい家族が増え、ドメーヌナカジマの“ワインと食”がどのように変化していくのか――。楽しみに感じながらワイナリーを後にしました。

 

 

 

 

児玉邸

4世代7人が集うにぎやかな食卓

写真/一目で全容がつかめないほど大きい「児玉家住宅」。大正11年に没した児玉彦助氏が、隠居分家として明治26年に建てた

 

「児玉邸」はワイナリーとしては珍しい屋号ですが、それもそのはず、国登録有形文化財「児玉家住宅」を所有する児玉さん一家が営んでいるのです。ワインボトルのエチケットにあしらわれている屋号紋“ヤマタマ”は、一度見たら忘れられません。

 

現当主は98歳になる児玉一彦さん。息子である俊一さんが、家を守る方策として選んだのがワイナリー経営でした。古くて大きい家は維持にお金がかかりますが、サラリーマンだった俊一さんは、どうやってその費用をまかなうか頭を悩ませていました。そんなときに、「ヴィラデストワイナリー」のオーナー・玉村豊男さんの奥様・抄恵子さんが言った「蚕室がワイナリーになるのでは?」という一言をきっかけに、俊一さんは千曲川ワインアカデミーの第1期生としてワインづくりやワイナリー経営について一から学ぶことになります。

 

ワイン用のぶどうを栽培し、醸造はアカデミーの学び舎でもあったアルカンヴィーニュに委託。2017年にファーストヴィンテージをリリースします。俊一さんは「ワインづくりをやっている方は、ワインが好きな方がほとんどだと思うのですが、うちは家を守るためにはじめたんです」と、申し訳なさそうに言います。とはいえ、何も知らないところからワインづくりに取り組み、高い評価を得ているのは、並大抵のことではありません。

 

2018年には次男・寧(ねい)さん一家がドイツから戻って同居し、4世代の大家族の暮らしがはじまりました。

寧さんは大道芸を生業とし、テュービンゲンという街の「ワーゲンブルグ」と呼ばれるトレーラーハウスが集まる自治区のような場所で、ドイツ人の奥様・アニーさんとふたりの娘さんと暮らしていました。水は毎日汲みに行き、電気はソーラー発電でまかない、トイレはコンポストという暮らしです。必要なものがあれば住民同士で貸し借りしたり、DIYでつくったりして、特に不便はなかったとか。「大道芸で一家4人が食べていけたのは、ワーゲンブルクの暮らし自体が低コストということもあります」という具合で、むしろ東御市で暮らすようになって、日本の一般的な生活はお金がかかることに驚いたそうです。

 

不自由を感じない楽しいワーゲンブルクでの生活でしたが、唯一、食べ物の自給が難しかったことが寧さん夫妻の課題としてありました。「農業を中心に食べ物を自給して、本当に必要なものだけを消費する生活がしたい」という思いで、日本に帰ってきました。寧さん・アニーさんという強力なメンバーを得て、ワイン用ぶどう畑の拡大だけでなく、野菜や米の無農薬栽培、養鶏、そして農薬をなるべく使いたくないということからつくった「種ありシャインマスカット」など、児玉邸はユニークな展開を見せています。

 

 

メルロー2017×自家製無農薬じゃがいものコロッケ

写真/4世代7人の家族写真。俊一さんの奥様・恵仁(えに)さん(左端)はスキーが大好きで、12~3月末はひとり菅平高原にこもる

 

ワインは大切な商品ということもあり、「実は、ふだん家でワインはほとんど飲まないんです」という児玉家。一彦さんが日本酒の晩酌を楽しみ、アニーさんはビールが好きということでしたが、料理が好きな寧さん・アニーさん夫妻は、自社ワインに合わせたい料理のアイディアは豊富に持っています。

 

そこで今回提案してくださったのは、自社ワインのメルロー2017年に合わせた、自家製の野菜や加工品を使った料理でした。

 

写真/天気がいいと外で食事することが多いという児玉家。寧さん・アニーさんの娘・心美(こごみ)ちゃんと和波(ななみ)ちゃんも、おいしそうにほおばっていた

 

児玉家に伺うと、立派な門と建物に囲まれた芝生の前庭にテーブルが出され、料理が並んでいました。大きなお皿に盛られた、キツネ色のコロッケが目を引きます。寧さんたちが育てた無農薬じゃがいもと玉ねぎ、塩こしょうだけのシンプルなコロッケですが、一口かじると香ばしさと甘みがたまりません。肉がなくても満足感があるのは、自家製野菜の力でしょうか。

 

他には、チーズとナッツ、自家製の干し柿を重ねたカナッペ風の「オードブル」、自家製の味噌と人参にキャベツとマヨネーズを合わせた「サラダ」、無農薬不耕起栽培米に自家製の沢庵と梅干し、さらにすりごまが入った「おにぎり」、アニーさんが焼いた自家製米の米粉パンが並びます。

なるべく食べ物を自給したいという言葉通りの料理で、同じ土地で育ったぶどうを醸したワインとはきっとぴったり合うに違いないと感じるものばかりでした。

 

 

写真/器は一彦さんの手によるものが多い。2019年に亡くなった妻・悦子さんは金子兜太に俳句を習っていたことがあり、ひとつ前の写真の箸立ての書は、悦子さんが作句してしたためたものだという

 

 

「ふだんは鍋料理が多いです。おにぎりもよく作りますね」(寧さん)

「夕食は、俊ちゃん(注:俊一さん)が作ってくれます。私は週末のランチでドイツ料理をつくることもあります」(アニーさん)

さらに、フキノトウや山菜、栗といった四季折々の里の食材も、たびたび食卓にのぼります。

 

「このあたりは明治時代の石垣がそのまま残っている水路があって、見るたびにすごいと感じます」と言う寧さん。児玉家は、旧家を守るという歴史の重みを自分たちの手で生活をつくる楽しみに変えて、新しい時代を軽やかに切り拓いているようです。

 

 

DATA

はすみふぁーむ&ワイナリー

住所:長野県東御市祢津413
電話番号:0268-64-5550
営業時間:11:00~16:00
休:平日、年末年始
ホームページ: http://hasumifarm.com/

はすみふぁーむ&ワイナリーShop&Café 上田柳町店
住所:長野県上田市中央4-7-34
電話:0268-75-0450
営業時間: 10:00~18:00(ランチは11:30~16:00)
休:水曜日

 

 

ドメーヌナカジマ

住所:長野県東御市和4601-3
メール:info@d-nakajima.jp
ホームページ:http://d-nakajima.jp/
★ワイナリー売店のオープン日はHP内ブログをご確認ください

 

 

児玉邸

住所:長野県東御市和7785
電話:0268-62-0393
メール:shunichikodama@gmail.com
公式フェイスブック:https://www.facebook.com/shunichi.kodama.5

 

writer
くりもときょうこ
くりもときょうこ

総合出版社で編集者として14年間、青年誌・女性誌・男性週刊誌・児童書と脈絡のないキャリアを経たのち、なんでも来い!の雑食系フリーランス編集・ライターに。こんなに楽しいならさっさと会社員を辞めればよかったと思う移住5年目。人生の重大事は「食」「好奇心」「秩序」。文弱の徒と脱学校少年と双子ズと長野県東信エリアの某村に暮らす。